〜序章〜
― 2000年 春 ―
深夜、都内マンションの1室で緋勇龍麻は不思議な夢を見た。
― 我《器》よ・・・真神へ行け ―
「っ!?・・・夢…か・・・」
そう呟いて再び眠りについた。
翌日龍麻は、夢で言われた通りに母校である、真神学園の校門前に来ていた。
皇帝の来訪にその美貌の為か、男女ともに視線を集め龍麻が在学時1年生だった頃の現3年生は口々に、
「きゃ〜、緋勇先輩よ!綺麗〜v」「緋勇先輩・・・相変わらずそこらの女子より美人だな」
と言い、卒業後に入学した1・2年生は、
「何?すっごい綺麗な人〜誰の知り合いかな?」「あそこにいる人って・・・誰だ?すっげぇ美人じゃん」
などと言っている。
当の龍麻は夢の事が気になり考え込んでいて気付いていない。
「ふぅ・・・何か妙な感じだったな・・・・・・・・・ん?」
やっと周囲の騒がしさに気付き、校舎への歩みを止め、教室等の方へ視線を向けた。すると、龍麻を知る女生徒達が、
「きゃーーー、緋勇せんぱ〜いvvv」
と、龍麻へと手を振り騒ぎ出す。
・・・大騒ぎだ、などと思いつつも龍麻は、笑顔で手を振り返す。
「・・・はぁ・・・ったく、何のん気な事をしてるんだ、お前は・・・」
そう言うなり、気配を悟らせずに近づいてきた男は、龍麻の服の襟をガシッと掴み引き摺りだした。
「い、犬神先生?首が・・・く、苦しいん・・ですが?」
「なら、ちゃんと歩け」
「は、い」
苦しい、と抗議してみたものの相手が淡々と返事してきたので、それに従い手を離してもらい歩く。
「緋勇、目立ちながら来るな・・・面倒が増える」
「元教え子に酷い言い様ですね」
「俺はお前の担任じゃない・・・」
「・・・・・・そうですけど・・・」
「無駄口はいい、さっさとついて来い」
「・・・はい」
龍麻は大人しく、犬神に付いて行く
―校舎内・生物室―
「で、卒業したお前が何故ココに来たんだ?」
慣れた手つきで煙草を吸いながら、犬神はコーヒーを淹れてた。
龍麻は犬神の問いに、
「夢で『真神へ行け』って言われたんですけど・・・ね・・・」
と、答えた。すると、ゴソゴソと犬神が何かを取り出す。
「・・・ほぉ・・・これは、裏密から”お前に”と預かった物だ」
そう言うと、犬神はいくつかの箱を手渡した。
龍麻は箱の中身を確認した。
「・・・これは・・・首飾り・・・ですね」
淹れたコーヒーのカップを渡し犬神は、
「裏密が言うには、もうすぐお前は異世界へ飛ばされ、それはそこで役に立つ装飾品なんだそうだ」
「・・・ミサが?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何故、真神だったんでしょうか?」
「俺が知るわけないだろう・・・龍麻、1つだけ言っておく」
「ですよね・・・・・・はい、何ですか?」
「・・・裏密が俺に言った中で、俺からお前に言える事は『万葉集』と『真神』と、そして・・・『俺』だ」
「???・・・っ!・・・ですが、どの時代に飛ばされるかなんてわからないですよ?」
「お前が飛ばされる時代は、裏密曰く『この時空とは違う異世界の平安時代』だそうだが・・・あいつはいったい何者なんだ、ったく・・・」
「・・・ミサ・・・・・・謎ありすぎ」
犬神にとっては元教え子で龍麻にとっては仲間である、今この場にはいない『裏密ミサ』という人物の≪謎≫だけがさらに深まった。
「ぁ・・・もうこんな時間だ」
渡された装飾品を手荷物の方の鞄へとしまい、時計を見て、龍麻がつぶやいた。
「どこか行くのか?」
「はい、晴明の所へ。俺専用の式神を以前貰ったんで、お礼を言いに行こうかと」
微笑で答える龍麻の、そばに置いてある大きな旅行用カバンを指差して言う。
「それにしては大荷物だな」
「両親の墓参りも兼ねて中国へ1週間くらい行こうと思いまして」
「・・・ふぅ・・・・・・それは無理だな、諦めろ・・・」
犬神は聞きながら取り出したしんせいに、火を点けて吸い、揺らぎ出した空間を見て言った。
「・・・ぇ・・・っ!?・・・そのようですね」
その犬神の言葉にポカンとし、空間が揺らいだ事に気付いて僅かに溜息を吐いて呟いた。
「気を付けろよ?龍麻。前みたいな無茶しない事だ」
「はい・・・ミサの助言と装飾品が役立つでしょうから不安はありませんがね・・・ぅあっ!?」
穏やかな笑みを浮かべながら頷いていた龍麻を荷物共々揺らいでた空間が飲み込んだ。
「・・・無事に帰って来いよ。龍麻・・・」
龍麻がいなくなり、誰にも聞かれる事なく少し心配気に犬神は祈る想いで呟いたのだった。
やっとの序章・・・長かった・・・書き上げるまでが(遠い目)
読んだ方に気に入ってもらえると嬉しいです。なんせ、ただ書きたかったもんなんで・・・。
2008年9月3日